2020年6月8日月曜日

ICD-11における解離性障害の分類 3


ここから先は、少し以下の論文の力を借りて書き進める。
Malhotra N, Gupta N. (2018Dissociative disorders: Reinvention or reconceptualization of the concept?. Indian J Soc Psychiatry 34:S44‑8.
 ここには次の記載がある。まず「DIDがそれまでの『特定されない解離性障害 unspecified dissociative disorders』から一つの独立した障害に格上げされたことは大きい、という。なるほどそのことを忘れていた。DIDという、もうユニバーサルな病名を、ICDはこれまで採用していなかったのだ。
さてこの論文を読むと「複雑性解離性侵入障害 complex dissociative intrusion disorder CDID)」の説明がある。こんなの聞いたことがないぞ。これは現在オンラインで公表されている分類の中にはない。つまりこの論文が書かれたころはこう呼ばれていたものが、現在公表されている「部分的解離性同一性障害」に姿を変えたらしい。これはいったい何のことだろうか? 
この論文には、このCDIDが新顔として登場していたことの理由が書かれている。こんな事情があったらしい。DIDではある人格がほかの人格に完全にとってかわられることがあるが、十分に統合されているとは言えない、いわば「中途半端な人格」がしばしば侵入してくる状態を果たしてDIDと呼んでいいのだろうか、という議論があったらしいのだ。どうやら解離の世界では、DIDの定義に関していろいろ議論があったようだ。簡単に言ってしまえば、「これは正式なDID、多重人格状態なのだろうか?」ということが問題にされたというわけだ。このことがどの程度本質的な議論かはわからない。Bさん、Cさんという交代人格がいわば「顔なし」状態として、そう、遁走にみられるような状態でしか現れない場合、それを多重人格状態と呼ぶべきかどうか、という議論があったのだ。そして「少なくとも二重人格は満たしましょうよ」(つまりはっきりとした別人格が少なくとも一人はいる状態で初めてDIDということにしましょう)という考えに至ったということになる。主人格以外が誰も明確なアイデンティティを持っていない(つまり「精緻化」されていない)場合にはDIDを名乗る資格はありませんよ、ということらしい。私の考えではこれらはあまり本質的な議論ではないが、まあ部分的DIDという概念の由来を知っておくことには意味があるのだろう。