2020年5月18日月曜日

ミラーニューロンの不思議 6

ミラーニューロンの働きを理解する上での一つの決め手は、赤ん坊と母親のやり取りを、模倣のプロセスとして見ることだ。それは相手に働きかけるということも含めて、である。つまり自分も母親に働きかけるということで、「模倣し返す」のである。その意味ではこの模倣は「オウム返し」とは異なることになる。母親が声をあげて、赤ちゃんがそれをまねるとき、母親はすぐにそれに気が付くだろう。それはすでに「やり取り」になっていることに注意しよう。一種のコミュニケーションなのだ。模倣を一種の本能、すでに脳に備わった特徴である考えることが出来る。赤ん坊は一種の模倣装置なのだ。しかしそれを行うことが交流になっていること、つまり模倣が対人関係の形成を伴っているとしたら、これはなんと合理的なのであろうか。そしてこれは赤ん坊が自分に関わってきた人に対する模倣を選択的に意味し、それは生存の可能性を保証する。赤ん坊は周囲に起きていることを何でもコピーするというわけではない。母親という特別な対象が自分に対して仕掛けてきたことを模倣するのだ。ローレンツの記載した鳥(鴈)の刷り込を考えればよいだろう。刷り込みには臨界期があるのが知られている。そして鴈の子供はその間に自分の母親によって刷り込みが行われることが大事なのだ。
赤ん坊の動作をその様な視点から考えることには意味がある。赤ん坊はおそらく母親との関りで、「模倣し返し」を必死で行なおうとするが、最初はうまく行かない。複雑な動きを伴うようなミラーニューロンはまだ成立していないからだ。舌を出す、などの行動に関してはおそらく生下時にもうそれは成立しているかもしれない。でもほかのミラーニューロンは試行錯誤により育てられていく。子どもは母親の出す声を聴いて、自分も発声をして、その間違えのフィードバックループを通じてそれを猛烈な勢いで修復していく。それはもう自動的に起きるのである。意図的な努力など必要ない。ちょうど母語の習得に努力など関係ない、というのと同じである。