2020年5月4日月曜日

トラウマ難治例 6


討論
以上の考察が示すことについてまとめてみよう。私たちはトラウマケースに重ね着される可能性として、発達障害(ASD傾向)、パーソナリティ傾向(BPD傾向)、気分障害(抑うつ傾向)、解離傾向を見た。これらの多くが、早期のトラウマの深刻さと生来の気質の組み合わせから成り立っているという事実も理解した。
まず端的に理解するならば、トラウマケースはその重ね着の状態が深刻になるほどに難治例として私たちに立ち現れるということが一般に言えるだろう。それはASD傾向やBPを併せ持ち、気分障害が併存し、解離傾向を有するケースが、現在進行形でトラウマ状況にある場合である。あるいはさらに正確に言えば、そのような重ね着状態を理解することなく、それらに対する治療的な関りを怠ることで、さらにそのケースは難治例とされるということになろう。
問題はこれらのすべてを重ね着するということが実際に起きるのであろうか、果たしてそれがトラウマの難治例の正体なのであろうかということである。残念ながらその問題について包括的に論じたものを寡聞にして知らない。
ここからは私自身の私見を述べさせていただく。私たちはおそらくトラウマ難治例に関して、大きく分けて二つの種類の「重ね着」を見ているのではないだろうかと考える。一つはBPを備えたタイプであり、それはASD傾向を兼ね備えているからであろう。他者の気持ちを汲めない、読み取れないという問題を抱えたBPを有する人に、より多くの対人関係的な問題が生じやすいということは、メンタライゼーションに関する研究が端的に表しているといっていいであろう。そしてこのタイプは、いわば外部に敵を見出し、感情を外に向ける傾向があるという意味では、外在型の難治例(ASD-BPDタイプ)と呼ぶことにしよう。
他方では、解離の病理が抑うつと結びつくことによる難治例にもしばしば遭遇する。私が日常的に出会う解離のケースが最も難治になるのは、引きこもりのケースである。いわば内在型のタイプがそれなのだ。多くのケースが回復に向かえない一番の原因は、抑うつ的になり、引きこもり、自宅から出られないタイプである。解離症状をもっぱら有する患者さんの一番の難治のパターンは抑うつであるという実感がある。
もちろん解離性障害においてもBPASDを備えることもあるが、解離性障害を有する傾向の人たちの常として、他人の気持ちを分かりすぎる、という問題があり、それはASDBPとは反対の傾向と言えるのである。こちらは内在型の難治例(解離、抑うつタイプ)とすることが出来よう。
これらのタイプに大まかに分類することの意味は大きいであろう。一般に外在型の場合には、メンタライゼーションテクニックを用いた精神療法的なアプローチが意味を持つであろう。内在型の場合には暴露療法はあまり適さないという方針はおおむね妥当と言える。息の長いカウンセリングや抗うつ剤による治療が大切である。
ただいずれにせよ重要なのは現在の生活でのトラウマへの暴露を避けることであろう。あるケースは長いこと年老いた母親に電話による攻勢を受け続けた。このような現在進行形のトラウマは内在型でも外在型でもそのケースを難治にすると言えよう。