2020年1月6日月曜日

難治例のアセスメント 1


難治例のアセスメント

難治例のアセスメントという、無茶ブリのようなテーマでの原稿依頼があった。そこで何とかまとめるべく、知恵を絞ってみた。難治例のトラウマアセスメント、という形でまとめようか。実際精神科医として多くの方に接していると、なかなか症状が改善しない方は多い。その際のアセスメントを改めて行う必要があるが、それはそのケースのヒストリーを一から取り直すということとは違う。それはケースを多層にわたって検討するということである。

重ね着症候群としてのケースの理解

私は時々「重ね着的」という言葉を用いて、病理を表現することがるが、それはもともと重ね着症候群という概念を提唱なさった衣笠隆幸先生の概念とはずいぶん異なっている。そこで誤解を招かないためにも、重ね着症候群についてまず紹介しなくてはならない。それは以下のように定義される(衣笠、他、2007)
1)18歳以上
2)知的障害はない。
3)種々の精神症状、行動障害を主訴に、初診時に各症例が表面に持つ臨床診断はさまざまである(統合失調症、躁うつ病、摂食障害、神経症、パーソナリティ障害・・・・)
4)しかしその背景には、高機能型広汎性発達障害が存在する。
5)高い知能のために達成能力が高く、就学時代は発達障害とはみなされていない場合が多い。
6)一部に、小児期に不登校や神経症などの症状の既往がある。しかし発達障害を疑われた例はない。

要するに重ね着症候群は「各種パーソナリティ障害の臨床像を持っている[が、]背景に発達障害を合併していて、自己理解を促すような分析的精神良能に対しては多くの患者が適応の対象にならない」(p36)とされる。衣笠が特にあげるパーソナリティ障害としては、境界性パーソナリティ障害とスキゾイドパーソナリティ障害がある。
衣笠隆幸 (2004) 境界性パーソナリティ治療と発達障害 : 「重ね着症候群」について-治療的アプローチの違い-精神科治療学 19, 693-699.
衣笠隆幸、池田正国、世木田 久美、他 (2007) 重ね着症候群とスキソイドパーソナリティ障害 : 重ね着症候群の概念と診断について 精神神經學雜誌109(1), 36-44, 2007-01-25(オリジナルあり)
これを見ると、いわゆるパーソナリティ障害の背後には発達障害あり、ということを言っていることになる。このたび「難治例」について考える機会を持ったが、実はこれについて考える際にも、この重ね着的な発想が重要になってくる。あるケースについて、それを難治と感じる際には、そこにはとりあえずつけられている、あるいはそうと確信を持ってつけられている診断とは異なる何かが背後にあり、そこに対して治療的なアプローチを行っていないという事情が存在する可能性があるのだ。
そしてトラウマのケースについてもこれが言える。トラウマ関連疾患だけでなく、それ以外の問題が「重ね着」されている可能性があるのだ。そこで私が用いる「重ね着」の用語を定義するならば、それはトラウマの有無、気分障害の有無、パーソナリティ障害の有無、知的障害の有無、そして精神病的エピソードの有無といった問題を多層的に考えることを意味する(岡野、2019)
岡野(2019) 初回面接 (滋賀心理臨床セミナー「アセスメント・導入・初期プロセス」滋賀県草津、2019512日)