2019年6月7日金曜日

ゆらぎと心 ③


またフラフラとゆらぎのテーマに戻ってきました。(これもまた「ゆらぎ」です。)
まず本書の最初のテーマ(ナンのことだ!)として選ぶのがこの「ゆらぎ」という概念、ないしは現象です。「ゆらぎ」、とは英語のfluctuation の日本語訳です。水面がゆらぎ、風に揺れて木の葉もゆらぎます。心がゆらぐこともあるでしょう。すなわち普段ならだいたいひとところにとどまっているはずの物事が、時間の経過を追っていくと細かく、ないしは大きく揺れて、再びもとの位置に留まるような現象を「ゆらぎ」と呼ぶのです。大体同じところに戻ってくるというところがポイントで、その物事のだいたいの位置は定められます。大地震の後に余震が続き、いわば大地のゆらぎがしばらく治まらないことがありますが、大体は時と共にそれは収まり、大地は静かになります。(もちろん地震計には体感できないような微小の「ゆらぎ」は観測され続けるでしょう。)
「ゆらぎ」は自然現象にいくらでも見られ、私の心の在り方としてもそのような表現がなされます。いわばごくありふれた現象と言えます。しかしこの「ゆらぎ」がなぜ現在これほどまでの関心を集め、また複雑性理論にとって重要な意味を持っているのでしょうか?
 私は「ゆらぎ」に限らず、複雑性理論の面白さは、理屈ではなく感覚的なものと考えています。ですからこの「ゆらぎ」の面白さを感覚的にわかっていただくところから出発したいと思います。そのために私が最初にこの概念に出会って心を惹かれたいくつかのゆらぎの例を出してみましょう。その前にこの「ゆらぎ」のめんどうな「」は、ここからは外しましょう。) 
13 (省略)これは株価のゆらぎです。私は株の売買などの投資をしたことは殆どありませんので体験からは言えませんが、おそらく投資家の方なら、このゆらぎに特別の思いを持たれるでしょう。株価の少しの上昇、下降は、大勢の人がわずかの間に行ったその株の売買を反映しています。特定の個人にとっては、株を買った直後の上向きのゆらぎは儲けを、下向きのゆらぎは損失を意味することになります。そしてそこで株を売るか、買うか、あるいはそのまま持っているかの判断は、その後のゆらぎがどの方向に向かうかによって決めればよいのですが、決して誰も正解を教えてくれません。そしてそれだけにそのゆらぎの方向が気になるのです。私たちはよく思います。
「こんな風に時間とともにギザギザに推移して来ている。ということはこのぐらいの幅でそろそろ上向きかな?」
おそらくそうなるかもしれません。しかし時には予想以上に大きい幅で上向きに動いたりします。そしてそれ自体が今度は少し大きなゆらぎを形成していきます。つまり揺らぎは小さなゆらぎと大きなゆらぎの複合体のような動きをしているのです。不思議ですね。ここが規則的な振動との決定的な違いです。そして面白いのは、時間のスケールを大きくしても、小さくしても、依然として株価は「同じように」揺らいでいます。つまりそれは同じ程度のゆらぎ方を示します。つまりひと月ごとの株の上下は、一年とか10年のスケールで見れば平坦にならされている、という風にはならないのです。ここが揺らぎの実に不思議なところです。 
このスケールを大きくしても小さくしても、結局揺らいでいる、という性質は、別の章(ナンのことだ)で論じる「フラクタル」という概念と関わってきますが、ゆらぎの大きな特徴です。そしてその特徴は心理学的には「未来は予測できそうに見えて、出来ない」と言い換えることができるでしょうか。
以下に示す一連のグラフ(省略)は、いずれも様々な数値が時系列で見た時に揺らいでいることを示しています。気温、気圧、海水温、あるいは地震計の示す波形も揺らいでいます。そして私たちの体の体温も、血圧も、脈拍数も、脳波もゆらいでいます。どうやら生命体に限らず、自然現象もゆらいでいるという事は、生命を宿しているか否かという事とは無関係にこの種のゆらぎが起きていることになります。普通だったら私たちはこう考えるかもしれません。「小刻みな動きならきっと起きても当然だろう。でも長い目で見たらそのような揺らぎも打ち消されるはずだ。」ところが先ほども書いたとおり、長い目で見てもやはりゆらぎは見られます。長い目で見てもやはり自然は揺らぎ続けています。揺らぎ続けるどころか、ものすごい激震がまっていたりします。むしろそれが自然界の理(ことわり)とでも言わんばかりです。(たとえば地球の自転の速度は揺らいでいます。でもそれは何百年、何億年のスケールで追ったら平坦な動きになるのでしょうか?否。もしそのすべての記録がグラフになっていて、それを過去にさかのぼる事ができるなら、地球が今よりはるかに高速回転していた時代、あるいはさらにさかのぼって大隕石との衝突による月の形成、という激震が記録されていることがわかるでしょう。