2019年4月3日水曜日

解離の心理療法 推敲 47


2)陰でオーラを放ち続ける黒幕人格
 皆さんは黒幕人格の「黒幕」という言葉から、「隠れてオーラを発する」「陰で糸を引く、裏で支配する」というイメージを思い浮かべることも多いでしょう。もともとそのような意味で「黒幕」という呼び方がなされるようになったのです。これまでも述べたとおり、黒幕人格は患者さんの心の世界で一定のオーラを放っているため、他の人格たちはそれに気遣ったり、忖度をしたりという事が起きてきます。ただしこの「黒幕」といういい方には彼らを多少なりともリスペクトするというニュアンスもあります。それは彼らの力が強く、患者さんや家族や治療者達の運命がその振る舞いにかかっているというところがあるからです。そして彼らの力を借り、味方になってもらうというところがなければ、治療は容易には進まないのです。そしてもちろんその「協力」には「休んでいただく」「お引き取りいただく」ということも含まれるのです。
もちろんこの陰で糸を引くという性質は、患者さんを昔陰で操っていた人が取り入れられているという部分も含まれます。つまり昔トラウマを与えてきた人は、直接の加害行為を行うことなく、しかし隠然たる力を持ち、近づくのも恐ろしいほどの「畏れ」の対象であったかもしれないのです。そしてそれには当然親の存在も含まれます。私たちは大人になってからは、子供にとって自分の何倍もの背丈と何十倍もの体重を持つ親がいかに恐ろしい存在となり得るのかを想像できないことが多いのです。しかもそれは子供のファンタジーの中でいくらでも倍加する可能性があります。いかに親がどなったり手を挙げたりした記憶がなくても、彼らは十分黒幕的な威力を持っていた可能性があるのです。

 サオリさん(42歳・女性)とおばけ(黒幕人格・男性)


      (中略)

 この事例で特筆すべきは、黒幕人格が主人格の陰で糸を引く人格として、子ども人格に認識されていたことです。主人格であるサオリさんは、必死に黒幕人格を眠らせ続け、コントロールしていました。しかし黒幕人格は、子ども人格と治療者とのやり取りを奥で聴いていたような印象を治療者は持っています。黒幕人格が陰で糸を引いていることを感じながら、明らかに覚醒させないように面接を進めた事例です。