2019年2月16日土曜日

解離の心理療法 推敲 13


DIDの症状をもって治療に訪れる患者さんの中には、自分自身が解離性障害を有し、いくつかの人格がいることを自覚していない場合もあります。その場合には正しい診断と理解が得られるまでの期間は当人にとっても人間不信を募らせ、治療に対しての失望を繰り返す期間ともなりえます。

人間不信のマナさん(40代女性)

  (中略)
 
対人関係のトラウマをもつ患者さんの心の底には、強い対人不信があります。それが人格化して治療関係を壊そうとしたり、攻撃的な態度で治療者を挑発したり、試すような言動でこちらを振り回してくることがあります。その様子は時には境界性パーソナリティ障害(BPD)の行動化との区別がつきにくく、実際にその診断を受けている患者さんもいます。ここで重要なのは、解離性障害とBPDは根本的に別の障害であるということを理解することです。そしてその上で解離性障害の人がBPDとしての性質(BPD性)をある程度重複して持っていると考えると比較的理解しやすいでしょう。
そこでBPD性とは何かと言えば、相手を繋ぎ止めようと自罰的、他罰的なあらゆる手段を用いるという傾向です。そして普段出ている自己抑制的な人格の陰に隠れていた感情的、黒幕的な人格がそのような性質を有する場合に、そのDIDの患者さんはBPD的な性質を現すことになります。治療を通して彼らが落ち着きを取り戻すことによりBPD的な行動化が収まっていく場合もありますが、衝動性や攻撃性が前景に現れ、BPD的な特性が表立って悪化する場合もあります。長い治療経過を通して最終的にどう変化していくかは、最後まで予測できないところがあります。