2019年1月2日水曜日

解離の本 70


一番問題となるのは、黒幕状態の遷延化という現象です。これまで黒幕さんの出現は一時的なものであるという原則について述べました。しかし時にはその黒幕さんの出現がかなり続いてしまうという現象が起きます。外来ではある方がセッションのあと待ちに出てしまい、しばらく行方不明になるということがおきました。別の方は逆に動けなくなってしまうということもおきます。黒幕さんが出た後は疲弊してしばらく眠り続けるということも生じます。いずれも黒幕さんが出るということがその人にとって大きなストレスとなったり、しばらくは他の状態へのスイッチングが不可能になるということが生じているらしいのです。つまり黒幕さんが出るということはそれだけでその人の脳に大きな負荷がかかるということを考えると、黒幕さんに出てもらうということ事態が決して軽々しく試みるべきではないということを意味しています。
この状態はちょうどPTSDを有する方に、過去のトラウマについて思い出していただくことに類似します。トラウマを思い起こすということは、そのときの生理的な条件も含めて再現してもらうということを意味します。通常トラウマが生じた際にはそこに交感神経の興奮を伴います。心臓はバクバクし、脈拍は上がり、発汗があり、ストレスホルモンが分泌されます。このような状態は人格が交代するときの一瞬のスイッチングのような変化は期待できません。皆さんも怖い映画を見たあとなどは、その興奮がしばらくは続き、眠れなくなったりもするでしょう.黒幕さんの出現もある種の生理的な変化を生み、その結果としてその出現が遷延してしまう場合があります。すると黒幕さんを扱うこと自体が侵襲的なかかわりとなってしまう可能性があるのです。