このスライドも同じ精神科のテキストに載っているものですが、初期のCT画像はとてもぼんやりしている。出血している部分がようやく分かる、といった程度だ。ところが最近はMRIで非常に鮮明に見え、しかもfMRI(機能的MRI)などになると、まるで動画を見るように、脳で起きていることを刻一刻示すことができるようになっている。この間のテクノロジーの進歩は、そこまですさまじいのである。ただし、どことどこがどのようにつながっていて、どういう機能分化をしているかということになるとほとんどわからないのであ
る。
脳の可視化が進んだ結果として、こんなことが分かり、それが臨床的に役に立ったといういくつかの例を挙げよう。例えば患者さんの訴える幻聴がある。幻聴というのは一種の幻であって、「気のせい」だと考える人さえいる。つまり聞こえていると信じ込んでいるから聞こえるのであり、本当は聞こえていない、という考え方である。ところが幻聴のある患者さんでつまり本人が幻聴の際に後頭葉の一次聴覚野の活動が検出されているということが研究ではわかっている。一次聴覚野には普通耳から入った信号が入ってくるわけですから、そこに興奮が見られるということは、本当に声として体験されていたのだ、ということが分かったことになる。
あるいはプラセボ効果やノセボ効果についてである。プラセボ、すなわち偽の薬を飲んでも痛みが軽くなるとはどういうことなのか? では実際に何が軽減したり低下したりするのか。例えば乳糖の錠剤、つまり薬効のない錠剤を飲んでもらって痛みが軽減した被験者がいるとする。その患者さんはプラセボ効果を示しており、この患者さんは気のせいで痛みが軽減しているだけだろうと思う人がいてもおかしくない。ところがfMRIで見ると皮質の様々な部位であたかも実際に鎮痛剤を飲んでいた時と同じような変化が起きていることがわかったのである。さらに私が個人的に面白いと思ったのは、被検者に安いワインを飲ませて、これは高いワインですと伝えると、美味しさを感じた際に興奮する部位である眼窩前頭皮質の活動が増すという報告がある。