2018年3月16日金曜日

解離の本 その8



5.明確なDIDの形を取らないために発見が遅れる場合もある

DIDでは主人格や別人格の存在がはっきりしていて、それらの間のスイッチングも明確に見られることが多いのですが、解離性障害の中にはDIDほどそれらが明確ではない場合があります。明確な人格の存在やそれらとのスイッチングが明確な形では見られない場合もあります。すると患者さんたちの悩みも漠然とし、つかみどころがなくなり、それだけ受診の動機とはなりにくいこともあります。は、DIDの人のように明らかな不適応として体験されることは少なく、漠然とした訴えで表現されることが少なくありません。「自分のことがよくわからない」「感情を感じられない」「記憶が飛びやすい」「頭の中がうるさい」などの訴えです。生きる上での困難を覚えているものの、自分でもその理由がわからないという話を聞くうちに、健忘や転換反応などの周辺症状があることが判明し、解離性障害の特徴が次第に明らかになるという経緯を辿ります。
このような、いわば「不全型のDID」の中には、明らかなDIDになる前の状態である可能性もあります。DIDの人格は、10代の後半から20代前半に様々なきっかけで明確になって行きますが、それ以前は漠然とした形しか示していない場合もあります。

Aさん

(中略)

このような患者さんの人格状態が治療経過とともに結晶化(岡野,?)し、より特定化された交代人格に発展していくかどうかは予測できないところがあります。とはいえ早い段階で適切な治療が行われれば、交代人格の結晶化を防ぐことができるように思われます。人格状態の変化が緩やかで連続性のあるものであれば、融合的な変化も起こりやすくなります。ただし人格状態の入れ替わりは見分けが付きにくく、治療者は微妙な変化を見逃さないよう注意し観察しながら、細やかな治療的介入を施す必要があるでしょう。